I-Method

改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第1回

不法投棄といかに戦うか


【写真説明】 千葉県銚子市の大規模不法投棄現場の撤去工事 約20万立方メートルの現場である。不法投棄に介在したことが明らかとなった約10社に撤去を命じた。撤去業者は千葉県、栃木県、埼玉県、神奈川県、東京都など、首都圏全域に及んだ。広域の産廃が銚子市に集まっていたことがわかる。火災が発生している現場で、廃棄物の温度が高くなっている。

最初の挫折体験

 千葉県の不法投棄が急増したのは、90年代の後半からである。私は96年から環境部産業廃棄物課に在籍し、97年から不法投棄対策の担当になった。
 千葉県の不法投棄は、最初は東京湾岸の市原市で増加し、次いで太平洋岸の銚子市に飛び火する形になり、その後長い間、両市の二極構造が続いた。この両市に不法投棄された産廃の90パーセント以上が、千葉県外からの流入物であり、許可施設を経由した産廃も多かった。
 98年になると、銚子市周辺で複数の大規模現場が同時多発的に活動するようになったため、県でもこの地域のパトロールに力を入れた。その矢先、銚子市の現場で、業者間のトラブルから発砲事件が起こり、危険だからその現場には近付かないようにという指示が出された。
 3ヶ月後、県警が関係者を検挙するのを待って、問題の現場の状況確認に行った監視チームのメンバーは、我が目を疑った。県のパトロールがないのをいいことに、業者は白昼堂々と産廃の搬入を続け、またたくうちに20万立方メートルもの産廃を積み上げていたのである。こうなってしまっては、もう撤去のしようがなかった。
 メンバーはみな、県が現場のパトロールを中断したのは失敗だったと痛感した。不法投棄対策は行政が前面に立たなければならないという私の信念は、この時に固まったといえる。

 その後の1年間、当時の監視チーム10人は、考えつくかぎりの行政的手法を次々と試みた。夜間の現場立ち入り、夜間のダンプ検問、証拠物によるルート解明と撤去指導、県外施設への立入検査、現場進入路への障害物設置、業界団体の現場視察会…どれもみな、それまで組織的に試みたことがなかった手法だった。
 しかしながら、1年間の奮闘の結果は惨敗だった。どんな手を打っても増加する組織的不法投棄を食い止めることはできず、行政は手も足も出ないのかという挫折感を味わっただけだった。
 私は上司に、夜間・休日パトロールを通年で実施するため、専門チームの編成を進言した。この案が採用され、翌年度の99年4月、産業廃棄物課監視指導室に機動班が発足した。これが現在、グリーンキャップと通称され、大活躍している千葉県の不法投棄監視チームである。
 私は、機動班が発足したのと同時に、産廃担当から離れることになった。このため、それまでに集めていた不法投棄の手口を1冊のマニュアルにまとめて、後任者に引き継いだ。これが、後日出版することになった「産廃コネクション」の原型になるとは、その時は思いもしなかった。

リターンマッチの快進撃

 01年4月、堂本知事の誕生と同時に、県下に10ヶ所ある支庁に県民環境課が新設され、それまで保健所が担当していた環境行政が移管されることになり、私は4月下旬、銚子市周辺地域を担当する海匝(かいそう)支庁県民環境課監視班のリーダーとして産廃の現場に復帰した。
 海匝支庁のたった4人のチームは、連夜の不法投棄を繰り返す大物の穴屋たちに立ち向かうことになった。相手は大型建設重機や大型ダンプで武装したプロ集団、対するこちらはほとんど丸腰同然だった。
 ゴールデンウィークの最中の5月2日、ダンプ3台のシュレッダーダストの不法投棄があった。自動車の破砕物だから、証拠はほとんどないはずだったが、あきらめずに真っ黒なダストを何時間もかけて手堀りし、わずかな書類の切れ端を探し出して破砕業者をつきとめた。証拠収集によるルート解明の効果を実証した瞬間だった。

 ここから快進撃が始まった。調査する現場をことごとく撤去させ、ピーク時には毎週撤去という状況になったため、不法投棄をやっていた業者はびっくりしてしまい、ダンプが怖がって集まらなくなった。
 不法投棄に関与した数十社にもなる関係者全員を会議室に集めて、調査結果を公表したり、他都県と連携して、県外業者への立入検査や行政処分を実施したりもした。
 この結果、組織的な大規模現場は、わずか2ヶ月で活動を完全に休止し、ダンプ単独の棄て逃げも半年ほどで終息に向かった。
 1年間の撤去現場は32、撤去率は80パーセント、撤去量は5千立方メートルになった。不法投棄に関与した原因者撤去にこだわったため、排出事業者撤去は1件もなかった。4人の歩兵が戦車軍団に完勝したわけである。
 しかし、銚子市周辺地域で不法投棄をやる者がいなくなった反動として、他の地域で不法投棄が増加するという思わぬ問題が生じた。ダンプの流れが変わり、その影響は千葉県内ばかりか、首都圏全域から東北圏にまで及んだのである。
 もちろん、海匝支庁が始めた調査手法は、すぐに他の支庁にも普及し、県下全域で、証拠収集による早期撤去が計られるようになった。

不法投棄現場取り締りの極意

 不法投棄から地域の環境を守るためには、早期発見と早期阻止が一番大事なことだ。1日遅れれば、1日分だけ、撤去が難しくなる。
 パトロールや指導を無視して不法投棄を続ける現場は、実力で封鎖することも辞さない。
 現場を何時間もかけて掘り返し、社名の入った廃書類や商品名の入った廃プラスチック類などの証拠物を集め、どこの業者に処理が委託されたかを調べ、ルートを絞り込んでいく。
 不法投棄に関与した業者をつきとめたら、県外の業者であっても、立入検査を実施する。
 調査が終了したら、関係者を集めて会議を開催し、調査結果を公表した上で、原因者に撤去を約束させる。これは調査の内容に自信がなければできないことである。
 撤去工事には多額の費用がかかる。工事費はダンプ1台50〜100万円にもなるから、台数がまとまるとかなりの痛手になる。(行政代執行では、1トン3〜7万円という措置費になることが多いようである。)
 最後に、違反業者に対して許可取消や刑事告発などのペナルティを課す。社名公表によって、不法投棄に関与したことが知れ渡ることも、業者にとっては、大きな経済的ダメージになる。
 こうした対策を組織的に実行するには、行政が自己完結的な問題解決能力を持つ必要がある。警察や消防など他機関との連携をはかるためにも、行政が実力をつけなければならない。
 不法投棄が単なる犯罪行為ではなく、その背後に経済的原因がある以上、行政が中心とならなければ不法投棄ゼロは達成できない。こうした行政の具体的な対策内容については、これから回を追って説明していく。

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