改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第9回
【写真説明】非鉄スクラップ輸出船(市原市の公共埠頭) 非鉄雑品と呼ばれる最低の非鉄スクラップ(銅、ステンレス、アルミなどの含有量20%)は、長く国内では廃棄物と同然に扱われていたが、国際資源価格高騰で中国に大量に輸出されるようになった。価格は2000年以降年々上昇し、キロ100円を超えることもあったが、リーマンショックで0円にリセットされた。価格が高い頃には、道路側溝の鉄製のメッシュ蓋(グレーチング)などの窃盗が相次いだ。現在、価格が戻ったため、ふたたび窃盗事件が起こっている。
大物自社処分偽装業者の手口
平成14年5月、千葉県市原市で、30万立方メートルを超える、千葉県では最大級の不法投棄現場の関係者が警察に検挙された。容疑は不法投棄ではなく、無許可処分業だった。
現場の入り口には、プレハブながら、かなり大きな二階建ての事務所が建てられ、会議も開催できるようになっていた。
事務室の右手には、偽装の主役である小型焼却炉が設置され、焼却炉の前の崖が、建設系廃棄物で埋め尽くされ、さらにうず高く積み上げられていた。
この現場は、さまざまな偽装工作を駆使して、県の監視や警察の捜査を攪乱していた。
第一に、焼却炉は、廃棄物処理法の設置許可の不要な1時間当たり190キログラムの能力と称していたが、それよりかなり大きいことが疑われた。しかし、燃焼実験などで実際の焼却能力を算定することができず、無許可設置かどうか断定するのに時間がかかった。
第二に、この焼却炉で燃やすと称して、到底燃やしきれない量の廃棄物を堆積していたのだが、自社処分のための保管だと主張している以上、不法投棄だと断定するのに時間がかかった。
第三に、偽装組合を設立し、組合所有の焼却炉だと称して、組合費の名目で、複数の建設業者から廃棄物処分料を徴収していた。しかも、幽霊組合ではないことを証明するため、組合員に偽装した建設業者を集めて、毎月例会を開催するという手の込みようだった。このため、組合が偽装であり、組合費が処分料であると断定するまでに時間がかかった。
このような周到な偽装工作を凝らす一方で、現場周辺に複数の見張り車両を巡回させて、無線や携帯電話で連絡を取り合って、県のパトロールを警戒しながら、大規模な不法投棄を続けていたのである。
なお、この業者は、無罪を主張し、控訴審で公判中である。
全国各地で、数十万立方メートルという不法投棄が発見されるたびに、「なぜ行政は発見できなかったか」ということが話題になる。相手がさまざまな偽装工作を凝らしていると、それを一つ一つ打ち破っていくのに、大変な労力を要する。その難しさのために、途中で指導をあきらめてしまうと、後になって「行政は何をやっていたのか」という批判にさらされることになってしまうのだ。
リサイクルと輸出の偽装
これまで全国的に報じられた香川県豊島でも、青森・岩手県境でも、有価物偽装(リサイクル偽装)があったとされている。
千葉県でも、有価物であると称して、数百〜数万立方メートルもの木くずや廃プラスチック類を堆積したまま放置し、結果的に不法投棄になってしまった現場が、いくつも摘発されている。
品質のよい木くずや廃プラスチック類は、本当に有価物として売れる場合もあるため、売れるか売れないかの押し問答を続けるうちに、廃棄物が積み上がってしまうのである。
リサイクル偽装の現場では、一立方メートルあたり、100〜500円で、廃棄物を売ったことにしておき、運送費の名目で処分料を5000円請求するという手口や、処分料を架空の建設工事などで裏金処理する手口が多い。
こうした手口を見破るには、会計帳簿や領収書まで見なければならないのだが、廃棄物処理法の立入検査権が、会計帳簿まで対象になるかは、解釈が分かれており、現実的には帳簿の提出を拒否されることもあるため、調査が遅れるのである。
最近は、中国などに輸出される廃棄物が増えており、不正輸出もかなりある。
不正輸出には、有害廃棄物や、リサイクルが不可能な単なる廃棄物を紛れ込ませる手口と、中古製品として販売できる自動車、建設機械、家電などを、廃棄物に偽装して輸出し、関税を脱税する手口の二通りがある。
現場の指導で問題になるのは、輸出するつもりだった廃棄物が輸出できなくなるケースである。これを輸出玉崩れという。
たとえばパソコン雑誌の付録CDが、銚子市と大原町で大量に不法投棄されたことがあった。調査してみると、返本された雑誌のもので、輸出玉崩れだと判明した。CDは、紙袋から出された状態なら、高値で輸出ができるのだが、未分別の状態で輸出しようとして値段が折り合わず、処分先がなくなって不法投棄したのである。
偽装を打ち破るには
不法投棄が正規の産廃処理の発展を阻害するように、リサイクル偽装や輸出偽装は、正規のリサイクルや輸出の発展を阻害する。
バーゼル条約に違反した有害廃棄物の輸出が、国際問題に発展したこともある。アジアを国際的な静脈物流圏へと発展させるという構想を実現するためには、リサイクルと輸出のルールを守らせ、偽装行為を一掃していかなければならない。
リサイクルを偽装している施設に対して立入検査ができるように廃棄物処理法が改正されたばかりだが、これまでも、自治体担当者が偽装現場への立ち入りまで拒否されるというケースは、それほど多くはなかった。肝心なのは検査の権限ではなく、ノウハウである。
リサイクル偽装を打ち破るには、自社物か他社物か、元請けか下請けか、有価物か廃棄物(無価物)か、有償か無償か逆有償かといったことについて、綿密な証拠を揃えていかなければならない。
そのためには、頻繁に現場に行って状況の変化を把握し、リサイクルを口実にした廃棄物の長期保管、大量保管を認めないことや、リサイクルや輸出先を確認できる書類を提出させ、裏が取れるまでは、リサイクルと認めないことが重要である。外国語の文書は翻訳も必要になる。
リサイクル偽装を打ち破るには、口先だけの偽装を認めない毅然とした態度や、ねばり強い調査・指導が必要なのである。
最近は、中国などに輸出される廃棄物が増えており、エアコンや湯沸機などをつぶした非鉄雑品、フレコンバッグに詰めた廃プラスチック類を積み上げている現場も目立つようになっている。業者に聞くと、非鉄雑品1千トン集めるのに、国内の買入価格は2500万円、それを中国のバイヤーに5000万円で売却するという。中国でアルミや銅を手分別すれば、それ以上の高値で売れるのだ。ポリスチレンなどの廃プラスチック類も、品質がよければ、同様の値段で売れると聞く。
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