I-Method

改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第3回

大規模不法投棄現場の封鎖


【写真説明】銚子の大規模不法投棄現場。首都圏全域から産業廃棄物が集められていた。手前に写っている四角いベール(梱包物)は、埼玉県の産業廃棄物処理業者のベーラーで、破砕・圧縮・梱包されたもので、オフィスゴミや医療ゴミが混入した廃プラスチック類だった。

組織的不法投棄の構造

 千葉県の不法投棄の特徴は、県外からの流入物が大半を占めること、組織的な不法投棄ネットワークが介在していること、自社処分場を擬装した現場が多いことの三点に集約できる。
 地理的には、2000年度までは銚子市と市原市の二極構造になっていたが、2001年度から両地区で取り締まりを強化した結果、その後は広域分散化している。
 都心で排出された産廃は、収集運搬業者を介して近郊の積替保管場や中間処理施設に運搬される。首都圏の産廃の一次集積地は、千葉県西部の市川市、埼玉県西部の所沢市、東部の三郷市、八潮市、栃木県南部の宇都宮市、小山市、東京都西部の世田谷区、府中市、あきる野市、八王子市、町田市、神奈川県東部の川崎市、横浜市、相模原市など、ドーナツ状に散在している。
 これら一次集積地に集められた産廃は、一部は中間処理され、一部はなんらの処理もされないまま、千葉県、栃木県、さらには東北圏、北陸圏、中部圏などの最終処分場に運搬される。しかし、最終処分場の残存容量が逼迫しているため、その中途で不法ルートへと横流しされ、千葉県、茨城県、福島県などの不法投棄現場へと運ばれる。
 千葉県への運搬の場合、銚子市へは栃木・埼玉ルート、市原市へは東京・神奈川ルートがメインになっていたが、一概にそればかりとは言えず、ルートは複雑に入り組んでいる。
 不法投棄現場までの不法運搬を行うのは一発屋と呼ばれる無許可のダンプだが、大規模な不法投棄では、複数のダンプを束ねるまとめ屋(ダンプの手配師)、許可ルートと不法ルートの橋渡しを行い、マニフェストの擬装工作などを受け持つ二次収集運搬業者、不法投棄現場を掘る穴屋、背後の暴力団などが連携し、広域的なネットワークを形成している。以前には産廃を横流しするネットワークの中心は中間処理施設だったが、最近は最終処分場が介在しているケースも増えている。
 このため、千葉県の不法投棄を止めるには、県内だけの対策では不十分であり、首都県全域の都県と連携して、積替保管場や中間処理施設から不法ルートへの流出を断たなければならない。

実力封鎖と固定監視

 毎晩20台以上のダンプを集めるような大規模な不法投棄現場や自社処分偽装現場は、背後に暴力団が関与して、組織的に行われている。
 こうした現場では、現場周辺はもとより、高速道路出口や、著しい場合には県庁の駐車場にまで見張りが乗った車両を巡回させている。いくら県が監視体制の増強に努めても、すべての現場を監視することはできず、かえってパトロールの隙をかいくぐるプロの業者を育てる結果になってしまうことすらありえる。見張りを複数立てれば余計な経費がかかり、その分だけ不法投棄が大規模化してしまうのだ。
 こうした悪循環を断つため、千葉県では、2000年度から、常習不法投棄現場の実力封鎖に踏み切った。現場侵入路への障害物設置、現場門扉の封鎖、24時間固定監視などの方法を組み合わせ、実力で現場を封鎖するのだ。
 障害物設置は、廃電柱や木杭の打ち込み、漁港事務所からもらったテトラポットなどの重量物の設置、土手や溝の築造など、さまざまな方法で行った。門扉のある現場では、門の前に杭を打ち込み、さらには現場の周囲を数十本の木杭と鉄条網でぐるりと封鎖したこともあった。
 業者から苦情が出たときの用心に、違法ダンプにより道路が破壊されるのを防止する道路保全の目的で行うという口実を設けてはいるが、不法投棄の実力阻止を目的とした強硬措置であることは誰の目にも明らかである。
 打ち込んだ杭が抜かれたり、新たな進入路が作られたりといったイタチゴッコになることもあったが、その都度封鎖をやり直すと、やがて現場は放棄された。杭が抜かれていないかどうかパトロールすればいいため、複数現場の同時監視が容易になるという効果もあり、それでも杭を抜こうとする現場では、門扉の直前で固定監視をした。さらに、地元住民が監視小屋を建て、連夜張り込むという地域封鎖も、00年7月から銚子市森戸町で始まった。
 実力封鎖という強硬措置によって、ようやく不法投棄の増加に歯止めがかかったといえる。

効果

 大規模現場の封鎖に成功しても、すぐに組織的不法投棄は終息しない。穴屋と呼ばれる不法投棄業者は、1つの現場が封鎖されても、次々と新しい現場に移動するからだ。
 不法投棄を一掃するには、地域全体から違法ダンプを締め出さなければならない。このためには、不法投棄の実行犯である穴屋、一発屋と呼ばれる無許可ダンプ、一発屋に廃棄物を流出させている処理施設、地主の関与などをつきとめて撤去を命じ、不法投棄をやり得にさせないことが重要だ。
 不法投棄の原因者をつきとめる方法には3通りある。第1は、現場に出入りしているダンプを追跡して、排出場所から不法投棄現場までを直接結びつける方法だ。しかし、ダンプの追跡には熟練を要するし、危険を伴うので、行政として多用できる方法ではない。
 第2は、不法投棄現場で証拠となる廃棄物を収去し、排出企業から順次、処理ルートを問い合わせていく方法である。解明の途中で、不法投棄への関与を否定したり、調査を拒否する業者も現れる。これを覆すには、複数の証拠を使って、ルートの一致点を求めればいい。複数のルートが一致した施設が、不法ルートへの流出ポイントなのだ。調査の課程で、排出元企業が処理の委託先に疑心暗鬼になり、契約を打ち切ることも少なくない。証拠の数が多ければ、打ち切られる契約も多くなるので、調査をやめてくれないと会社が潰れると音をあげる業者も現れる。ルート解明調査には、実質的な経済封鎖効果があるのだ。
 第3は、不法投棄の関与が疑われる業者に立入検査を実施し、取引先名簿などを提出させることだ。これにより、業者間のネットワークが明らかになる。
 ルート解明が終わると、不法投棄に関与した業者に現場の撤去を命ずる。このとき業者名を公表するかどうかで、経済封鎖効果が違ってくる。社名公表は、許可取消や措置命令などの行政処分の際に行うのが通例だが、行政指導による撤去でも、関係者を集めた調査結果説明会を開催すれば、事実上の社名公表になる。マスコミには業者名を公表しない場合でも、撤去工事現場は公開し、不法投棄がやり得ではないことをアピールする。
 撤去指導、行政処分、社名公表による経済封鎖を徹底して続けると、不法投棄に関与していた業者や背後の組織は、商売にならないとあきらめて、その地域から撤収を始めるのだ。

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