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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第5回

千葉県産廃条例(上)


【写真説明】銚子市の自社用小型焼却炉偽装不法投棄現場 設置許可未満であると称する小型焼却炉を設置し、解体業者が自社の解体物を焼却すると称して、大量の産廃を堆積している。実際に処理能力を測定すると許可基準以上であり、また他社物も受注しており、無許可施設設置、無許可処分業違反であり、同時に不法投棄でもある。

不法投棄の二つのルート

 不法投棄には、大きく分けて二つのルートがある。
 許可処理施設に集積された廃棄物が不法業者に流出するルートと、最初から不法業者に流れるルートである。
 流出ルートによる不法投棄は、大規模化、組織化する傾向があるのに対して、直行ルートは小規模分散化、ゲリラ化することが多い。直行ルートの方が発生件数は多いが、流出ルートの方がボリューム的には大きい。
 廃棄物処理法だけでは不法投棄を撲滅できないとして、地方自治体が独自の廃棄物条例を制定することが多くなっている。産廃条例ブームともよぶべき自治体のさまざまな取り組みも、流出ルート対策と、直行ルート対策に整理して考えるとわかりやすい。
 流出ルート対策は、排出事業者と許可業者に対する対策、あるいは上流対策であり、産廃処理システムの構造的な欠陥を正すものである。これに対して、直行ルート対策は、不法投棄業者対策、あるいは下流対策であり、アウトローの世界の取り締まりを目的としている。
 二つの対策の、どちらが欠けても不法投棄を撲滅することはできない。不法業者をいくら取り締まっても、許可処理施設の能力が足らなければ、結局、施設からの流出をなくすことはできない。ところが、料金の低い不法業者が許可処理施設の仕事を圧迫しているため、施設が増設できないというジレンマがあるのだ。

上流対策と下流対策

 流出ルート対策には、産廃排出量抑制、許可処理施設の増設と高度化、業者の格付けなどがある。
 自治体で導入が進んでいる産廃税は、流出ルート対策の代表である。三重県のように産廃の排出量を課税対象とすれば、節税のために排出量抑制の効果が期待できるし、北九州市や東北三県などのように産廃の最終処分量を課税対象とすれば、中間処理の高度化や域内処理が推進される効果が期待できる。排出量が抑制され、許可処理施設の能力が増設されることで、オーバーフローが解消すれば、流出ルートの不法投棄は減少するのである。
 岩手県などが進めている処理業者の格付けも、流出ルートの拠点となっている悪質許可業者を締め出すために有効である。
 直行ルート対策は、千葉県や京都府の条例が代表的なものである。
 千葉県条例は、小規模処理施設の許可制、自社処分の処理票、許可車両のステッカーを柱にしている。
 京都府条例にも、千葉県と同様に、自社物保管用地の届出、自社廃棄物運搬指示票などが盛られており、直行ルートの抜け道となっている自社処分偽装の一掃を目的としている。
 このような自治体の先行する対策に呼応して、環境省でも産廃税、業者格付け制度、許可車両ステッカー制などの全国化を検討している。

 千葉県条例の概要

 千葉県内には、廃棄物処理法の施設設置許可対象となっていない、小規模処理施設や自社積替保管施設が、450カ所もある。この中には、自社処分場を偽装して他社物を受け入れている「もぐり処分場」(無許可処分業)や、堆積された廃棄物が火災を起こすなどの環境問題を起こしている自社処分場が少なからずあり、県外から県内へ不法投棄を呼び込む温床ともなっていた。
 このため、千葉県では、自社処分場による不法投棄や環境問題の一掃を目的として、平成14年3月、「千葉県廃棄物の処理の適正化等に関する条例」を制定(平成14年10月施行)し、1年間の経過措置をおいて、平成15年10月から完全施行した。
 この条例は、@小規模処理施設(小型焼却炉、小型破砕機、自社積替保管場)の許可制度、A収集運搬業許可車両標章制度、B自社運搬・処分用の廃棄物処理票制度の3本柱からなる。この外に、自社処分場への搬入時間の制限、立ち入り検査などの規定を置いている。
 小規模処理施設の許可制度は、自社処分を偽装した大量の産廃の集積・保管行為(事実上の不法投棄)、保管された産廃の火災、崩落、悪臭、土壌・水質汚染などの環境問題、自社処分場を経由した不法投棄が後を絶たないことから、廃棄物処理法では許可が要らず、自社処分場偽装の抜け道となっている小規模処理施設を許可制にするものである。これは典型的な法の横出しであると言える。
 具体的には、1時間の焼却能力50kg以上200kg未満の小型焼却炉、1日5トン以下の小型破砕機、100平方メートル以上の自社積替保管施設を許可対象にしている。
 許可車両標章制度は、一発屋と呼ばれる無許可ダンプや、代車と称する無許可車両への再委託運搬をあぶり出すため、許可車両のドアにステッカーを貼付させるものである。
 大きさは15cm×20cm、許可の終了年別に色分けされ、マグネット式になっており、交付手数料は1枚2200円である。
 廃棄物処理票制度は、法のマニフェストが必要ない自社物の運搬について、処理票の交付・携行、運搬・処分終了後の保存を義務付けるものである。
 条例施行後、千葉県内で産廃を運搬する車両は、積荷が他社物であれば法のマニフェスト(産業廃棄物管理票)と許可車両ステッカーがあるはずであり、自社物であれば廃棄物処理票を携行していることになり、どちらも持っていない車両は、千葉県内で産廃を運搬できないことになる。
 これに午後10時から午前6時までの自社処分場への搬入規制を組み合わせることで、夜間の不法な運搬を取り締まることができるようになる。
 このように、千葉県条例は、自社処分場偽装を中心とする不法業者の取り締まりを効果的に行うことに特化した条例なのである。

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