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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第2回

千葉県の不法投棄対策


【写真説明】 千葉県光町(現・横芝光町)乾草沼のほとりのゲリラ不法投棄現場。銚子市の大規模不法投棄が沈静化すると、その反動として無差別棄逃事件事件(ゲリラ不法投棄)が周辺地域へと拡散した。しかし、それも徹底した調査・撤去によって鎮静化に向かった。しかしリーマンショック後の2008年末から、解体工賃が低下し、再びゲリラ不法投棄が多発する傾向になっている。

千葉県と全国の不法投棄

 千葉県は、全国最悪の不法投棄多発県として知られている。環境省が集計した公式統計によると、00年度の全国の不法投棄は40万トン、その30パーセントに相当する12万トンが千葉県である。
 01年度には、堂本知事の下での対策が功を奏し、3分の1の4万トンへと激減したものの、ワースト1の汚名返上には至らなかった。しかし、この統計には2つの点で疑問がある。
 この統計は、あくまで各自治体の調査により把握された量だから、調査能力の差によって報告量が変わる。千葉県は、総員約100名という全国最大の監視チームを擁し、24時間365日のパトロールを実施している。このほか、県警でも環境犯罪課という他の県にはない特別の課を設置して徹底した取締りを実施している。千葉県の報告量が多いということは、調査能力が高いということの裏返しでもある。特に夜間・休日にパトロールを実施しているかどうかで、不法投棄の発見率は大きく違ってくる。もう1つの問題は、過年度分の不法投棄が報告対象外になっていることだ。
 私の試算では、全国の産廃の不法投棄や不適正処理量は公式統計の100倍の年間4千万トンになる。過年度分を含めた不法投棄や不適正処理の累積量は五億トンになり、その大半が未撤去のまま放置されていると推定される。香川県の豊島方式の撤去事業費(1トン10万円)をモデルとして試算すると、全量撤去に必要な事業費は、国家予算に匹敵する50兆円になる。豊島の撤去事業費と等しい500億円の予算を毎年計上したとしても、撤去が終わるまでに千年かかる計算だ。おそらく、千年後の未来にも、不法投棄現場の多くが未撤去のまま保存され、いつか遺跡として発掘されるに違いない。

不法投棄対策の沿革

 千葉県の不法投棄対策は、いくつかのトピックスによって、次の4期に分けることができる。
  第1期 グリーンキャップ以前(〜99・3)
  第2期 グリーンキャップ発足(99・4〜)
  第3期 支庁県民環境課発足(01・4〜)
  第4期 産廃条例施行(02・10〜)
 第1期(99年3月以前)には、環境部産業廃棄物課監視指導室が不法投棄対策を実施していた。だが、10名足らずの人員で、現場のパトロール、立入検査、撤去指導、行政処分、訴訟など、不適正処理対策業務をすべて実施する体制だったため、激増する不法投棄に追いつけなかった。また、この当時には不法投棄が行われる夜間・休日のパトロール体制がなかったため、夜間の監視・取り締まりは警察任せという状況だった。
 第2期(99年4月〜)に、監視指導室内に監視班と機動班が設置された。監視班は立入検査、行政処分、訴訟などの担当。機動班は夜間・休日のパトロール専門チームで、保健所が実施する昼間のパトロールと合わせて、県単独の24時間パトロールが初めて可能になった。
 ほぼ同時期の99年3月に、GAT(グリーンアクションチーム)が発足した。産業廃棄物課の機動班、保健所の環境保全対策室のメンバーが、シンボルであるグリーンの帽子を被ってパトロールするため、グリーンキャップと通称された。帽子のエンブレムデザインは私の案である。その後、グリーンキャップは機動班の呼称として定着した。
 グリーンキャップの活動により、不法投棄は沈静化するかに思われたが、パトロールをかいくぐるテクニックを駆使するプロの業者が生き残ってしまった。こうした業者は、複数の見張りを配置してパトロール車両の接近を事前に察知したり、自社処分場やリサイクル施設と称するなど巧妙な偽装をして、県の指導を撹乱したのだ。この結果、かえって現場が大規模化してしまい、グリーンキャップが発足した99年度、千葉県は全国ワースト1の不法投棄多発県となってしまった。
 第3期(01年4月〜)は、堂本県政の誕生と同時に始まる。県下に10ヶ所ある支庁に県民環境課が新設され、それまで保健所が実施していた環境行政が移管された。
 当初は4支庁の県民環境課だけにパトロールを専門とする監視班が設置されたが、02年度からは全10支庁に監視班が拡充された。支庁の監視班は昼間のパトロールと調査、産業廃棄物課の機動班は夜間・休日パトロールを実施することにより、迅速な調査指導が可能になった。
 これにより、ようやく02年度から千葉県内の不法投棄は減少に転じた。とくに銚子市の減少は著しく、ほとんど不法ダンプを見なくなった。しかし、その反動として、県下全域でダンプ単独の棄て逃げが多発する事態となり、市原市の自社処分場への不法堆積も続いていた。
 このため、自社処分場の規制を主眼とした「千葉県廃棄物の処理の適正化等に関する条例」(略称:千葉県産廃条例)が02年3月に制定され、同年10月から施行された。ここからが第4期である。
 千葉県産廃条例は、廃棄物処理法による設置許可が不要な小規模処理施設の許可制、収集運搬許可車両の標章(ステッカー)貼付、自社で排出した産業廃棄物の運搬・処分について廃棄物処理表の作成義務の3つを主要な内容としている。千葉県産廃条例の詳細については、回を改めて説明する。

<産業廃棄物課監視指導室人員の推移>
 97 総員9
 98 総員10
 99 総員20
 00 総員20
 01 総員22
 02 総員29
 03 総員29
<支庁県民環境課監視班人員の推移>
 01 4支庁総員14
 02 10支庁総員35
 03 10支庁総員51

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