改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第14回
【写真説明】土砂採取場跡地への建設発生土の処分(千葉県市原市) 千葉県の丘陵地帯は、首都圏の建設骨材の80%を供給している。その跡地の穴に、再び首都圏の建設工事で発生する大量の残土や汚泥が持ち込まれている。
残土処分の偽装
産業廃棄物の不法投棄には、時期によって品目のトレンドがあり、10年ほど前までの千葉県では、建設汚泥の不法投棄が最も多かった。
千葉県に不法投棄されていた建設汚泥の大半は、東京都内の土木・建設工事に伴うものだった。
建設汚泥は、トンネル工事、地下鉄工事、高層ビルの基礎工事などの際に大量に発生する。コラムジェット工法など、高圧の水を噴射して地盤を掘削し、コンクリートの基礎を築造する方法が普及したためである。このほか、軟弱地盤の掘削でも、汚泥状のアース残土が発生する。
千葉県は、首都圏で使用される建設用砂利・砂の80%以上を産出する建設骨材供給県だが、同時に建設汚泥や建設残土の最大の受入県でもあり、東京都内の高層ビルや地下鉄の工事は、千葉県が支えているといっても過言ではない。
このため、砂利ダンプによる粉塵公害や交通事故の多発が深刻な問題になった時期もあり、ダンプの多さが、その後の産業廃棄物の不法投棄問題にもつながっていく。
建設汚泥は、水分が80%以上あり、そのままでは埋立処分ができない。このため、脱水・乾燥・固化などの方法で処分を容易にする。
フィルタープレスなどの脱水機を用いる方法は、工場系汚泥や下水道汚泥の処理では広く行われているが、一度に何万トンも発生する建設汚泥には向かない。天日乾燥はコストが安いため、上水道汚泥の処理などで行われているが、建設汚泥を乾燥させるには、広大な敷地が必要であり、多雨の地域では乾燥に長期間かかるという問題がある。このため、建設汚泥処理の主流は固化になる。
固化剤には、セメント系、ベントナイト系、石膏系など、何種類かあり、固化した後の性状も異なる。固化剤は、工事現場で投入されてしまうこともあるし、中間処理施設で投入されることもある。最初からセメントミルクが混入した状態で排出される汚泥もある。
固化剤を投入した汚泥は、固まってしまう前に管理型最終処分場に運搬し、埋立処分するのが原則である。
しかし、処分費が高いため、建設残土に偽装して、大半が不法投棄されてしまい、適正に最終処分されるものは少なかった。
セメント系固化剤を使った建設汚泥を埋め立てると、かちかちに固まって石灰石のように真っ白になる。土壌の強度を示すコーン指数が高すぎるため、掘削すらできなくなり、建物を建てることも難しい。また、PH11以上の高いアルカリ性のために、草も生えない状態になってしまう。何年かすると、表面部分だけは、雨水で若干中和され、通常の土壌では生育しない異形の雑草が生えてくる。
こうした建設汚泥の不法投棄は、汚泥を適度な硬さに改良し、地下鉄工事や河川工事などの現場で再利用する流動化処理を始めとするリサイクル処理が普及したこともあり、現在は目立たなくなってきている。
建設発生土の種類と規制
建設汚泥の不法投棄が多かった背景には、建設発生土のうち、建設汚泥だけが廃棄物処理法が適用される産業廃棄物になるのに対して、含水率の低い建設残土や、汚染土壌には法規制がなかったことがある。汚染土壌については平成15年に土壌汚染対策法が施行されたが、建設残土については、今も法規制はない。
廃棄物処理法が適用され、最終処分場に埋め立てなければならない建設汚泥と、法が適用されず、自由処分できる建設残土では、処分料が1桁違う。
建設汚泥の処分料は、1立法メートル1〜2万円であり、このほかにタンク車など汚泥運搬専用車両を使った運搬料がかかる。ダンプ1台(6立方メートル換算)では、10万円前後になる。
これに対して、建設残土の処分料は、運搬料込みでダンプ1台1万数千円であり、千葉県内の残土事業場では、ダンプ1台5千円程度で、建設残土を受け入れている。建設汚泥を、建設残土に偽装して処分すれば、この処分料の差額が利益になる。おおよそ1万立方メートルで1億円の利益になるだろう。これが、建設残土偽装の不法投棄が後を絶たなかった理由である。ときには最終処分場に入った建設汚泥すらが、流出してしまうことがあった。
現在では、建設汚泥だけの不法投棄はほとんど見られなくなったが、建設残土と見分けがつかないように処理された建設汚泥が、改良土として埋め戻し材に使われている場合もあり、最終処分される建設汚泥は相変わらず少ない。改良土はPHが高いが、通常の建設残土よりもコーン指数が高く、崩落防止などの点ではメリットもあるようだ。
千葉県残土条例
千葉県は、首都圏から大量に流入する建設汚泥や建設残土の無秩序な埋立処分を規制するため、千葉県では、都道府県レベルとしては全国初となる「千葉県土砂等の埋立て等による土壌汚染及び災害の発生の防止に関する条例」(残土条例)を2007年7月に制定し、2008年10月1日から施行した。
この条例は、面積3000平方メートル以上の残土事業場に対して適用され、それ未満の残土事業場については、市町村条例を適用することとなる。ただし、平成15年の残土条例改正により、市町村が希望すれば、面積要件以上の場合でも、市町村条例を優先することができることになった。基礎自治体への権限移譲という点で、注目すべき改正である。
残土条例により、残土事業場を設置する者は、縦横断図などの関係書類を添えて、県に事業場設置の許可申請をしなければならなくなり、また事業開始時と完了時の地質検査証明、搬入土砂の土砂等排出元証明書と地質分析(濃度)結果証明書の提出を義務付けられた。
条例施行当時には、法的に自由処分が認められている建設残土の処分になぜ許可が必要なのかという苦情が寄せられたが、建設残土を排出するゼネコンなどは、千葉県の残土事業場なら許可があるから安心できるということになり、全体として条例の遵守状況は悪くないが、かえって条例が建設残土を呼び込んでいるという面もある。
また、事業区域の無許可拡張、土砂搬入届の未提出や偽造、建設残土の船舶運搬による港湾施設の環境悪化などの問題が頻発している。平成15年には、木更津市と市原市にまたがる残土事業場で、大規模な崩落事故があり、許可を取り消した。
また、コンクリートガラや建設現場の下ゴミなどの産業廃棄物を、建設残土に若干混ぜて偽装不法投棄する手口も続いている。
建設発生土に対する包括的な法規制を望む声も一部にはあるが、当面は、県条例の運用強化と市町村との連携によって、問題の解決を図っていかなければならない状況が続きそうである。
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