I-Method

改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第4回

多発する捨て逃げゲリラとの戦い


【写真説明】銚子漁港のゲリラ不法投棄現場。大量に見えるがダンプ1台分である。右の人物が筆者。証拠調査の結果、一週間後には市内の解体業者の犯行であることが判明し、撤去を命じた。この当時、このような現場が銚子市周辺地域だけで毎日何件も発生していた。筆者のチームは、半年間で30現場を撤去させ、ゲリラ事件撤去率100%を誇っていた。

不法投棄の小規模分散化

 千葉県の不法投棄は、平成12年度の121千トンから平成13年度の48千トンへと、投棄量は約3分の1に激減したが(環境省集計)、10トン未満の小規模現場も含めると、発生件数は156件から446件へと、逆に3倍になってしまった。
 これは、大規模現場が封鎖された反動として、県外から集まってきたダンプが、Uターンするついでに、所かまわず積荷を捨て逃げしていったのが主因である。
 したがって、投棄された廃棄物は、大規模現場が活動していたころと内容的には変わらず、首都圏の積替保管施設や中間処理施設に一度集積されたものが多く、廃棄物の横流しが常習化した業者の常套手段である重機破砕(キャタピラによる踏みつぶし)された廃棄物も見られた。
 不法投棄の発生件数は、平成14年になっても横這いで推移した。平成15年度になると、自社処分場規制を強めたことなどから、不法投棄はさらに小規模化し、発生件数は前年並にもかかわらず、量的には前年同時期の4分の1に落ちている。
 不法投棄が小規模分散化したことにより、トータルでの投棄量は着実に減少しているものの、捨て逃げによる地主の被害、公有地や道路を狙った投棄、有害な硫酸ピッチや有機溶剤の投棄など、手口の悪質化が目立つようになっている。件数が増加したことにより、取り締まりに要する人員も増えている。
 不法投棄の小規模分散化、ゲリラ化は、全国的な傾向であり、平成13年度の全国統計でも、不法投棄量は減少しているのに、件数は増加するという逆転現象が見られる。この傾向は今後ますます進展するものと予想される。

捨て逃げゲリラの手口の変化

 県外のダンプによるUターン型捨て逃げは、1年ほどで収束に向かったが、これと反比例して、県内ダンプによる持ち帰り型捨て逃げが増加した。このため、全体として発生件数は減らなかった。
 県内ダンプによるゲリラでは、東京、埼玉、神奈川方面から廃棄物を持ち帰り、駐車場や自社処分場で待機し、夜半になって土地勘のある自宅周辺地域に反復的に投棄する手口が多い。単独犯行ではなく、乗用車で先導してパトロールを警戒したり、無線で連絡を取り合ったりする手口も目立つ。大規模な組織ではないながら、グループによる犯行なのである。その中心に、かつて大規模現場に関与していた人物がいることも珍しくない。
 平成15年度には、ゲリラの再組織化がさらに進展し、同一地域に同種の廃棄物が連続的に投棄される事件が頻発するようになった。有機溶剤が混合した汚泥の連続不法投棄事件、廃畳の連続不法投棄事件、同時多発的な硫酸ピッチの不法投棄や不適正保管などである。
 有機溶剤混合汚泥については、何台かのダンプがチームとなって、県外の特定の施設から搬出していたことが判明し、関係者が検挙された。端緒となったのは、汚泥の中から見つけ出した証拠物による排出源の追求だった。
 廃畳についても、何台かのダンプが反復的に不法投棄したことが推定され、一部の者が検挙されている。道路の真ん中に投棄していくような悪質な投棄が続いたため、多発地域において関係機関と連携した24時間パトロールを続けたのである。
 軽油密造施設から排出される硫酸ピッチの不法投棄の多発も、全国的な問題となっている。

ゲリラ撲滅作戦

 産廃処理システムの構造的欠陥が背景にあり、複数の産廃処理施設が流出ポイントとして関与し、さまざまな偽装工作を凝らして、組織的に行われる大規模投棄現場と、捨て逃げゲリラとでは、取締りの方法も異なる。
 ゲリラを未然に防止するためには、多発地域で夜間連続パトロールを実施するしかない。このため、幹線道路の交差点に終夜張り込み、通過するダンプをすべてチェックし、怪しいダンプは追跡していくといった手法も用いている。また、ダンプの待機場所として利用するなど、ゲリラの拠点となっている疑いのある自社処分場についても、立入検査を実施し、状況把握している。
 不法投棄物を展開して証拠を収集し、排出源を突きとめることももちろん行っているが、大規模現場のように多数の証拠を発見することは難しい。
 単発・単独のゲリラ不法投棄は、ダンプ運転手の犯罪行為を取り締まることが、最大の抑止になる。このため、県警環境犯罪課と連携し、ゲリラ不法投棄の実行犯検挙に全力を上げている。今後は現行犯逮捕を活用することも必要である。
 このような取り組みにもかかわらず、いまのところ捨て逃げゲリラは収束する兆しを見せていない。
 ゲリラ的不法投棄を完全に封じ込めることはできないと思われがちだが、諦めてはいけない。週に一度や二度の不法投棄をやったところで、ダンプの運転手は生活していけない。監視体制を強化して、ゲリラがやりにくい状況を作り、それを一定期間維持していけば、運転手は、もっとまともな仕事を探すようになる。
 不法投棄が単なる犯罪行為ではなく、ビジネスとして成り立っているという現実を逆手に取れば、経済的封鎖が、対策の真髄になる。組織的不法投棄についても、ゲリラ的不法投棄についても、ビジネスとして成立しにくい状況を作っていくことが、ボディブローのように効いてくる。
 小規模化、ゲリラ化は、不法投棄の末期症状であり、ここで対策の手を緩めなければ、やがて不法投棄は収束に向かうはずである。

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