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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第15回

医療系廃棄物の不法投棄


【写真説明】医療系廃棄物不法投棄現場の調査(千葉県成田市) 県警と県庁が合同で消毒しながら医療系廃棄物を発掘調査している。不法投機者は逮捕、排出事業者も特定されて、約10トンの焼却費600万円を負担させた。その余の不法投棄物2万2千立方メートルは、約2億4500万円を県・市・業界が負担して撤去することになった。

中絶胎児の焼却

 2004年7月、横浜市の産婦人科医院が、中絶胎児を一般ゴミなどと混ぜて不正に廃棄していたと報じられ、9月に元院長が廃棄物処理法違反で逮捕された。非常にレアなケースと考える人が多かったと思うが、実は1997年に、千葉県でも同じような事件があった。感染性廃棄物の焼却の許可を持っていた勝浦市の中間処理業者が、埋葬が必要な妊娠12週以上の中絶胎児を焼却していたと報じられたのだ。
 この業者は、複数の病院から中絶胎児の処理を頼まれ、焼却炉の前で線香を焚いて供養しながら焼却していたという。社長が助産婦(現在は助産士)の資格を有していたこともあって、産婦人科との関係が深く、中絶胎児の引き取りを拒否された場合に相談を受け、処理を引き受けていたと見られた。
 さらにこの業者は、医療系廃棄物や廃油、焼却灰の不法投棄や無許可業者への再委託を繰り返していたため、許可を取り消した。
 動機としては、横浜市と千葉県のケースは異なるが、妊娠12週未満の中絶胎児は廃棄物、それ以上は墓地埋葬法上の死体になるという線引きにそもそもの問題がある。
 現実の問題として、埋葬の必要がない中絶胎児でも丁寧に水子供養をする人がいる一方で、妊娠12週以上の中絶胎児がすべて埋葬されているとは限らない。発覚していない不正処理は少なくないだろう。
 手術で切除した臓器などを、感染性廃棄物として処理する必要があるのは当然だが、一個の生命だった中絶胎児は、倫理的にはすべて遺族に返して埋葬すべきであるように思う。
 その一方、死体にも一種の人格を認めた死体遺棄罪や死体損壊罪が、他の国には例のない日本独特の犯罪類型であるという指摘もある。
 ローマ法王庁など宗教界では、妊娠中絶ばかりか、人の受精卵を用いた実験すら、殺人であるとして否定していることが多く、妊娠中絶を法律で禁止してきた国もある。フランスでは、それが女性の権利の侵害だという解禁運動が続けられてきた。
 日本は倫理的には保守的な国だが、妊娠中絶や不妊手術に関しては、旧優生保護法(平成2年母体保護法に改正)によって、欧米よりも早くから認められてきた。しかし、フランスとは逆に、男性が妊娠の責任を取らない男尊女卑の温床になっているから規制すべきだという批判があり、医療事故も多かった。法律の名前が変わっても、実態はほとんど変わっていない。
 中絶胎児が廃棄物になっているという問題には、こうした複雑な社会的・法的背景がある。

感染性廃棄物の撤去工事

1996年2月、成田市芦田の建設系廃棄物の不法投棄現場の一角に、感染性廃棄物が大量に埋められていることが、他県からの通報によって確認された。関係者は逮捕され、撤去を県が実施することになった。
 通常、県による撤去は廃棄物処理法の措置命令を発し、行政代執行として行われる。しかし、このケースでは、撤去の緊急性を考え、行政代執行によらず、民法による事務管理として任意執行するという法的構成で、手続きに要する時間を短縮した。このため、国に補助金を申請することはできなかったが、それに代わって、成田市と千葉県産業廃棄物協会が支援をしてくれた。
 不法投棄量は全体で2万2千立方メートル、撤去工事の工期は5ヶ月、費用は約2億4500万円だった。このうち県が約9800万円、成田市が同額の約9800万円、千葉県産業廃棄物協会が管理する千葉県環境保全対策基金から約2450万円、同協会会員によるボランティア(無償処分等の協力)が2450万円という負担割合になった。
 撤去工事に先立って、産業廃棄物課と佐倉保健所の担当者を総動員した医療系廃棄物の全量掘削調査を行った。不法投棄されていた医療系廃棄物は10トンにもなり、注射針、点滴チューブ、手術用手袋など、あきらかに血液が付着した感染性廃棄物だった。掘削現場内には異臭が立ち込め、担当者は防臭マスクを着用し、消毒液を散布しながらの作業となった。感染性廃棄物はすべてペール容器につめ、許可処理施設の倉庫内に保管し、調査終了後に焼却処分した。この調査で、担当者2人が、安全靴を履いていたにもかかわらず注射針を踏み抜き、病院で応急手当てを受けたが、幸い大事には至らなかった。

医療系廃棄物の処理方法

 感染性廃棄物は、病院、診療所、歯科診療所のほか、保健所や保健センター、臨床検査施設、医療系大学や専門学校、老人ホーム、学校の医務室、在宅患者のいる家庭からも排出される極めて裾野の広い廃棄物である。さらには、ペット医院、畜舎、屠場や食肉検査所などからも感染性のある廃棄物が排出される危険がある。リケッチアなどによる人畜共通感染症があるからである。
 医療系廃棄物のうち、ウイルスなどで汚染しているおそれのある注射針や、感染症病棟からの廃棄物が、感染性廃棄物と呼ばれるが、感染性の定義は難しい。環境省は平成16年3月に「感染性廃棄物処理マニュアル」を改定し、感染性廃棄物の定義を旧マニュアルよりも厳密にしたが、かえって定義を狭くしたのではないかと異論が出されている。医療に誤診がつきもののように、廃棄物の感染性にも誤認がありうるし、未知のウイルスによる感染もありうるからである。その意味では、すべての医療系廃棄物を感染性廃棄物として処分することが望ましいが、そうなると処分費が高額になり、処理施設も足らなくなってしまう。
 感染性廃棄物は、バイオハザードマークのついた専用の容器に入れられ、保冷車で運搬し、容器ごと焼却するのが一般的になっている。ステンレスなどの容器に入れて運搬し、高圧蒸気やマイクロウェーブで滅菌する方法もある。処理費は通常の産廃より割高で、注射針のような鋭利物の処理費は、キロ200円にもなる。
 その一方で、針を外した点滴チューブや医療材料の包装などは、非感染性廃棄物とされ、通常の廃プラスチック類として処分される場合も多い。また、病院内で滅菌してから排出するための装置も開発されているが、高額のため普及は大病院に限られている。
 感染性廃棄物を処理する施設は不足していると言われているが、収集運搬業者の競争は激しく、処分料のダンピングが行われており、それが不適正処理の原因になっている。
 感染性廃棄物の不法投棄が発見されると、マスコミがセンセーショナルな報道をするので、地中深く埋めてしまうことが多いせいか、発覚するケースはまれである。
 必ずしも感染性とは言えないが、老人ホームなどから排出される紙おむつも、難燃性であることから、不法投棄されることがある。また、未使用の薬剤の不法投棄もある。
 感染性廃棄物問題は、廃棄物の問題であると同時に、医療の安全の問題であり、医療界を上げての取り組みが望まれる。

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