I-Method

改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第8回

巧妙化する偽装工作…自社処分、リサイクル、輸出


【写真説明】自社処分場の木くずチップ火災の窒息消火現場(市原市) 約3万立方メートルの木くずが1週間炎上した。原因は廃棄物の断熱効果により、有機物の発酵熱がこもったことによる自然発火であると思われた。窒息消火作業は、石渡のチームが連日現場にはりついて、事業者を指揮して鎮圧した。消防署も連日放水を続けて、窒息消化作業の安全を確保してくれた。これはむしろ消火の成功例であり、行政代執行は行わず、原因者の自主的な措置で解決した。
 ほぼ同じ頃に起こった佐倉市の約6万立方メートルの木くず堆積現場は、石渡のチームの担当ではなく、消防署が放水による消火を試みたが、48日間炎上を続け、ほぼ全焼してしまった。事業者は逮捕され、跡地の廃棄物の撤去のための代執行費用に3億円かかってしまった。これは消火の失敗例である。
 大規模な廃棄物火災が起こった場合には、放水によっては消えず、覆土による窒息消化が最善の鎮圧方法である。

最大の抜け道

 自社処分は、廃棄物処理法の最大の抜け道になっている。
 これまで全国的に報じられた豊島の不法投棄、所沢の小型焼却炉、青森・岩手県境の不法投棄など、いずれも自社処分やリサイクルの偽装と無関係ではない。
 逆に言えば、こうした偽装がなければ、不法投棄がそこまで大規模化することはありえない。自治体が偽装を見破るのに手間取る間に、現場が拡大してしまうのである。
 千葉県が全国最悪の不法投棄多発県になってしまった背景にも、自社処分偽装の問題がある。銚子市周辺地域では、平成9年以前に、小規模自社最終処分場と称する無許可の埋立現場が無数に作られ、処分場の看板まで掲げて、昼間から堂々と不法投棄を行っていた。
市原市周辺地域では、自社物あるいはリサイクル原料の保管場と称する無許可の堆積現場が無数に作られ、事実上の不法投棄現場になっていた。こうした偽装工作に対して、断固とした対応ができなかったことが、問題を深刻化させてしまったのである。
 自社処分には、さまざまな類型があるが、次の3つのケースが代表的なものである。
 第一の類型は、工場内の焼却炉や脱水施設など、排出事業者が自ら廃棄物を処理するケースである。廃棄物処理法はこのケースを想定して、自社処分を規制対象外としているのである。施設の規模によって、施設設置許可は必要になる場合があるが、処理業の許可は必要ない。
 第二の類型は、解体業者が、自社の解体物(主として木くず)を処理するために設置した焼却炉、破砕機などである。所沢で問題になった焼却炉はこのケースだった。もちろん、他社物を受け入れれば、もぐり処理施設(無許可処分業)となる。
 ダイオキシン類対策特別措置法の制定や廃棄物処理法の改正、自治体の条例などにより、廃ガスの規制が年々強化されるにつれて、焼却炉の設置数は減少し、これにかわって破砕機や保管施設が増加している。これに伴い、大量保管された木くずや木くずを破砕したチップの火災が大きな問題となっている。
 第三の類型は、中間処理施設が設置した最終処分場である。これは中間処理後の廃棄物は、中間処理施設の自社物になるので、最終処分の許可は要らないという法解釈を環境省が是認していることによる。この法解釈をつきつめると、破砕・選別・焼却・埋立という一連の処理工程の最初の段階の許可を取得しておけば、後の段階の処理工程は許可が要らないということにすらなりかねない。

悪意なきリサイクル偽装

 自社処分偽装に対する規制や監視が強化されたため、偽装工作の主流はリサイクルに移りつつある。
 リサイクルの偽装には、善意の偽装と悪意の偽装がある。
 環境省の廃棄物処理法解釈では、運搬費まで含めて有価物として売却できなければ、リサイクル(再利用)とは認められず、リサイクル施設であっても産業廃棄物処分業の許可が必要になる。この解釈の例外になるのは、鉄スクラップ、ガラス瓶、紙くずなど、従来から廃品回収業者によって再利用されてきた「もっぱら物」とよばれる品目だけである。
 このため、リサイクル業者は、通常の産廃処理よりも処理コストが高いのに廃棄物を原料として買わなければならず、製品市場でもバージン材料から作るよりコスト高なのに販売価格は安いという二重苦の状況に追い詰められている。
 廃棄物を原料として買ったことにして、運搬費を高めに請求するとか、リサイクル製品を売ったことにして、運搬費を別立てで請求するといった偽装が慣行化しているのはこのためである。これはリサイクルの現実と廃棄物処理法の解釈が乖離しているための悪意なき偽装(やむにやまれぬ緊急避難措置)とも言える。
自治体が一般廃棄物から作ったRDF(再生固形燃料)も、実際には販売できずに廃棄物として有償処分されていることが大半だし、家電リサイクル法や容器包装リサイクル法でも、逆有償リサイクル(廃棄物処理費を受け取るリサイクル)となっている。悪意なき偽装は、一部では既成事実として公認されているのだ。
 悪意の偽装は、こうしたやむにやまれぬ措置を悪用したものであり、リサイクルや輸出をすると称して逆有償で受け入れた廃棄物を堆積したまま、リサイクルも輸出もしないで放置することをさす。中には、ダイオキシン類で汚染された焼却灰や有機溶剤混じりの汚泥を堆肥として農地に還元したり、有害廃棄物を不正輸出したりといった、悪質な手口もある。単なる焼却炉を炭焼き釜やボイラーと称して廃棄物処理法の規制を逃れる手口も横行している。
 このようにリサイクルの偽装に、悪意なき偽装(一部は公認)と悪意の偽装の二つがあることが、取締りを困難なものにしている。その背景には、廃棄物処理法上の廃棄物やリサイクルの定義が曖昧であり、現実に即していないという問題がある。

偽装を打ち破るには

 不法投棄が正規の産廃処理の発展を阻害するように、リサイクル偽装は、正規のリサイクルの発展を阻害する。リサイクルを偽装した有害廃棄物の輸出が、国際問題に発展することも少なくない。アジアを国際的な静脈物流圏へと発展させるという遠大な構想もあるが、そのためにもまず国内の偽装リサイクルを一掃することが先決である。
 環境省では、リサイクル偽装をしている施設に対して立入検査ができるように廃棄物処理法を改正したが、肝心なのは検査の権限ではなく、ノウハウである。
 リサイクル偽装を打ち破るには、自社物か他社物か、元請けか下請けか、有価物か廃棄物(無価物)か、有償か無償か逆有償かといったことについて、綿密な証拠をそろえていかなければならない。
そのためには、頻繁に現場に行って状況変化を把握し、リサイクルを口実にした廃棄物の長期保管、大量保管を認めないことや、リサイクルや輸出先を確認できる書類を提出させ、裏が取れるまでは、リサイクルと認めないことが重要である。外国語の文書は翻訳することも必要になる。
 リサイクル偽装を打ち破るには、口先だけの偽装を認めない毅然とした態度や、ねばり強い調査と指導が必要なのである。

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