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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第13回

有機汚泥の不法投棄


【写真説明】食品系汚泥の不法投棄(千葉県旭市) 写真では泥のようにしか見えないが、食品系汚泥をおがくずで脱水したもので、とんでもない悪臭を放っている。食品リサイクル法施行後、コンポスト化(堆肥化)施設の多くでこのような未熟性(未処理)食品系汚泥(動植物性残渣)の流出が発生した。

食品汚泥の底なし沼

 千葉県飯岡町にある食品汚泥のコンポスト化処理施設が、平成13年から14年にかけて、問題をたびたび起こしたため、許可が取り消された。
 発酵施設内には未発酵の汚泥がとんでもない腐敗臭を放ち、ハエがびっしりとたかって真っ黒になっていた。発酵が進んでいれば、温度が高くなるので、ハエがたかることはないはずである。
 施設から離れた場所に設置した製品ヤードにも、未発酵の汚泥が大量に積み上げられており、さらにその隣接地が汚泥の底なし沼と化していた。
 この施設は、水分調整しただけの未処理の汚泥を、県内のみならず、首都圏全域の農場などに出荷したため、出荷先から悪臭の苦情が相次いでいた。
 農地を深く掘り下げ、汚泥と土を混ぜて埋めているだけなのに、それを土壌改良工事と称していたのだ。
 この施設は、マヨネーズ、ペットボトル飲料、食油など、食品工場から排出される有機汚泥(脱水ケーキ)や動植物性残渣を発酵させ、堆肥にしている施設だった。
 取引先には、誰でも名前を知っている大手の食品メーカーが名を連ねており、リサイクル率100%を標榜していた。取引先は、それを信じて食品リサイクル法の計画を立てていたに違いない。
 しかし、実際には100%不法投棄と言ってもいい状況だった。
 適正に堆肥化させたものだけを出荷するように再三指導したが、なかなか改善されなかったため、県外にある本社に立入って会計帳簿などを検査した。
 この結果、受注量が許可処理能力の2倍あることが判明したため、受注量を処理能力以内にするよう勧告した。
 3ヶ月かけて、受注量は、4分の3(処理能力の1.5倍)まで減ったが、施設内の状況は改善しなかったため、1ヶ月間の業務全面自粛を命じた。それでも目を盗んで搬入を続け、ついには、積み上げられた汚泥の圧力で、施設の一部が自壊するという事態になった。
 そこで連日監視をして、業務自粛を遵守させた結果、ようやく場内の汚泥は減少し始めた。
 その後、警察と連携して調査を進め、農地造成を偽装するブローカーと結託した不法投棄の全容が、ようやく解明され、許可を取り消したのである。

汚泥リサイクルの実態

 動植物性残渣、有機汚泥、廃食油などのリサイクルで一番普及しているのは、好気性発酵によって堆肥を作るコンポスト化である。
 有機汚泥を発酵させるには、混合機を使って原料の汚泥、もみ殻や木くずのチップ、種菌の3つを混ぜて、水分調整する。水分量は30%程度が適当で、水分が少なくても多くてもうまく発酵しない。
 これを発酵施設内に2〜3メートルの高さに積み上げると、発酵が始まって、温度が60度程度に上がり、湯気が立ち上るようになる。
 空気を入れて発酵を促進するため、ローダーを使って1週間に1度程度切り返しを行う。
 最初はべたついていた汚泥が、1ヶ月程度で、手の指からパラパラとこぼれるような乾いた堆肥になる。アンモニア臭を完全に抜くには、さらに長期間の発酵が必要になる。
 多くの施設では、手作業に近い形で発酵処理をしているが、原料混合、切り返し、製品出荷を自動的に行うプラントも開発されている。
 汚泥を発酵させた堆肥は、肥料取締法の特殊肥料の認定を受ける。中には、数日しか発酵させていないほとんど生の汚泥で申請している業者もあるが、発酵が進んでいるかどうかは、検査成績ではわからないので、水銀やカドミウムなどの有害物質が基準以上の数値でなければ認定されてしまう。むしろ未発酵の方が、窒素など有効成分が多いという。
 汚泥発酵堆肥は、農家に売れるような品物にはなかなかならず、ただでも引き取り手がないことがほとんどである。農作物の種類ごとに肥料の配合は微妙に違うので、成分がよくわからず、品質の安定しない汚泥発酵堆肥は、補助的に使うのがせいぜいであり、品質を問わない牧草や芝生の育成用に使用されているのが大半なのである。

意外に多い汚泥の不法投棄

 この事件と前後して、農地造成を偽装した汚泥の不法投棄が、他の施設でも発覚した。
 どの施設でも、汚泥を発酵させた堆肥が、売却のあてもなく大量にだぶつき、農地造成のための土壌改良剤と称して出荷し、不法投棄されていたのである。
 通常の施肥では、1アールあたりせいぜい10キロ程度の堆肥を撒くにすぎないが、農地造成偽装では、100トン以上もの未熟性汚泥を投棄してしまう。
 これでは、肥料になるどころか、植物の根を腐らせてしまうので、1メートル以上表土を被せて隠す手口が多い。この深さなら、普通の農作物は根が届かないので、生育に目立った影響はでない。しかし、逆に言うと堆肥としての効果も全くないのである。
 不法投棄されている汚泥も、下水道汚泥、家畜のふん尿などさまざまであり、どうせ深く埋めてしまうからと、生のままの汚泥や、運びやすくするため水分調整しただけの汚泥を埋めてしまうことが多かった。
 年間総排出量4億トンとされる産業廃棄物のうち、汚泥は1億8千万トンと、全体の45%も占めている。さらに家畜のふん尿も、9千万トンある。
 統計的には建設系廃棄物の不法投棄が一番多いことになっているが、排出量の多さや処理の実態を考えると、汚泥や家畜のふん尿の不法投棄も相当あるのではないかと疑われる。
 しかし、農地造成や残土処分を巧妙に偽装しているため、発覚する現場が少ないのである。また、発覚したとしても、何が埋められているのか特定できず、排出元もわからない場合が多い。
 現在、廃食油のバイオディーゼル化、下水道汚泥や家畜のし尿のバイオガス化などの技術も進展してきている。しかし、最終処分されている汚泥もまだまだ多い。管理型最終処分場の埋め立て品目で一番多いのは汚泥であり、その中でも下水道汚泥の割合が多くなっている。
 循環型社会を形成するためには、排出量の一番多い汚泥の適正なリサイクルを進展させることが重要な課題だと言える。

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