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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第12回

最終処分場を巡るトラブル


【写真説明】最終処分場の下流に出現した黒い川(千葉県銚子市) 黒い沈殿物の下には白い沈殿物があった。成分検査の結果、硫化物とカルシウムが飽和状態だった。両方を合わせると硫酸カルシウム、すなわち石膏である。上流の安定型最終処分場に大量の石膏ボードが埋め立てられていることを、この黒い川が示唆している。この写真は最終処分場だが、不法投棄現場の下流でもしばしば黒い川を発見した。管理の悪い安定型最終処分場は、許可のある不法投棄現場なのである。

黒い川

 千葉県内のある安定型最終処分場で、下流の水路の底が数10メートルにわたって真っ黒に変色し、さらに下流の休耕田まで黒く染めているのを発見したことがある。
 直ちに汚染水の流出を止めさせた上で、原因を究明した。水底を黒く染めていたのは、石膏ボードの硫酸カルシウムに由来する硫黄だった。
 最終処分場内には、硫化水素の異臭が立ち込め、水溜りはカルシウムが析出してミルク色になっていた。調査と是正工事のための操業自粛、業務停止処分などにより、営業再開までに約1年を要した。
 実は、こうした黒い川と、硫化水素による異臭は、不法投棄現場における典型的な環境汚染であり、許可のある最終処分場が、不法投棄現場と同じ問題を起こしていたと言える。
 ここ以外にも、問題を起こす最終処分場は少なくない。
 特に多いのが、安定型最終処分場への木くずや汚泥といった管理型の廃棄物の埋め立てである。
 平成10年6月、安定型最終処分場に「熱しゃく減量5%以下」という厳しい基準が設けられた。木くず、紙くず、繊維くずなどの混入を5%以下にせよということだが、この基準の達成が困難と見られたことから、安定型最終処分場は全滅し、すべて管理型か遮断型の最終処分場になるのではないかと言われた。
 環境省が発表した最終処分場の残余年数は、平成14年4月1日現在、首都圏で1.1年、全国で4.3年となっている。この数字だけ見ると、最終処分場の不足が深刻なようだが、ここ数年の間、残余年数は、若干だが増えている。
 全国の最終処分場新規許可件数は、平成11年度に前年度の5分の1(135から28)に減少し、その後も30前後で推移している。
 それにもかかわらず、残余年数が増えているのは、リサイクルが進展しているためと考えられる。
 かつては、最終処分場は「金のなる穴」とも呼ばれ、許可さえ取ってしまえば、経営は極めて安定していると考えられてきた。しかし、最終処分場を巡る環境が変化したことにより、さまざまな問題を抱えるようになっている。

最初の10%

 最終処分場は、最初の10%と、最後の10%が特に危ない。
 新規に許可された最終処分場では、建設費を捻出するため、搬入権を前売りしたり、借り入れた建設費を返済する代わりに、搬入権を与えたりすることがある。この際、正規の処分料の半額〜3分の2程度に値引きすることが多い。
 前売りされた搬入権は、数千万円〜1億円程度に分割され、複数の中間処理施設に切り売りされる。これ自体を違法とすることはできないため、経営権の乗っ取りや、権利の二重売買など、搬入権を巡る業者間の紛争は多く、訴訟に発展している最終処分場もある。
 最終処分場が完成すると、搬入権を買った中間処理施設からの廃棄物の搬入が始まるが、権利があるからと違法な廃棄物を故意に混ぜる業者がある。最終処分場側も、金にならない前売り分を早く終わらせたいため、ノーチェックになりがちである。
 この結果、石膏ボード、汚泥、廃油などが持ち込まれて汚染されてしまい、浄化工事を施工させなければならなくなる。
 さらには、前売り分を効率的に処分するため、最終処分場の底に深い穴を掘ったり、壁面に横穴を掘ったりする悪質な最終処分場もあり、埋め戻させたこともある。
 このように、最初の10%は、悪いものが持ち込まれたり、最終処分場の構造が改変されたりするリスクが高いので、厳重な監視を必要とする。

最後の10%

 最終処分場は、いずれ満杯になる。新規処分場の許可を取ることが難しいため、最後の10%に近づくと、残存容量を温存しようと、さまざまな不正行為に手を染めるようになる。
 一番簡単な手口は、無許可のエリア拡張である。最終処分場の裏山などにこっそり大きな穴を掘って、廃棄物を処分してしまうのである。これは不法投棄と何ら違いはない。
 千葉県では、サンドイッチ工法といって、廃棄物を2メートル埋めたら、土を50センチメートル被せるという工法を義務付けている。この中間覆土をこっそり剥がして、容量をかせぐのも常套手段である。
 中間覆土を剥がさせないため、中間覆土をするごとに測量を行い、ときにはボーリング調査を実施させているが、それでも覆土を剥がそうとする最終処分場が後を絶たない。
 埋立が終わった廃棄物を掘り出して不法投棄してしまう最終処分場や、マニフェスト(産業廃棄物管理票)にスタンプだけ押して、廃棄物は受け取らないという空伝を使う最終処分場もある。
 一番悪質なのは、残存容量がないのに、搬入権を大量に前売りしてしまう最終処分場である。空売り分は、不法投棄で埋め合わせざるをえないことになる。
 平成12年から13年にかけて、首都圏全域から千葉県に大量の産業廃棄物が流入し、複数の現場に不法投棄される事件があった。背景を調べてみると、県外のある最終処分場が閉鎖された際、搬入権の空売りが数億円発生したことが原因だとわかった。
 空売りをつかまされた収集運搬業者が千葉県内への不法投棄で帳尻を合わせようとしたのである。
 大規模な不法投棄では、許可のある中間処理施設や積替保管施設が介在していることが一番多いが、最終処分場が介在した不法投棄も少なくない。
 不法投棄は、最終処分場の不足が原因であり、最終処分場を増やせば不法投棄をなくせるという人がいる。
 ところが、その最終処分場が、さまざまな不正行為に関与しているのだから、問題は深刻である。
 行政がやるべきことは、一刻も早く許可業者が不正行為に手を染める現状を改善し、許可証の信頼性を回復することである。
 許可証の信頼性を確保できなければ、許可を与えた行政の信頼性も確保できない。
 それが全国各地で最終処分場の許可取消や工事差止を求める訴訟が提起されてしまう一つの理由になっていることも否定できない。

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