改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第6回
【写真説明】市原市の自社用小型焼却炉の立入検査 焼却炉構造の基準改正により義務付けられた、二重扉、自動投入装置などを備えているかどうか、使用前検査をしている。能力的には法律の設置許可基準ぎりぎり(1時間200kg未満)だが、条例の許可対象(1時間50kg以上)になる。写真に写っているのは、半地下式の焼却炉である。
千葉県条例の効果と限界
千葉県条例の第一の柱である小規模処理施設許可制度の対象施設(既存施設)は、小型焼却炉、小型破砕機、積替保管場を合わせて、450施設あるが、経過措置期間の満了した平成15年9月末日までに許可されたのは、そのうち僅か50施設にすぎない。
これは条例のそもそもの制定目的が、不法投棄の抜け道となっている自社処分場の一掃を目指すものであるため、許可対象施設から申請があっても、機械的に許可を与えていないからである。
許可しない理由として多いのは、廃棄物の場内堆積量が処理能力の14日分以上あること、施設の能力が法の許可基準以上であることなどである。
とくに、焼却炉では、カタログに表示された能力が時間200kg未満となっていても、実際の能力はその倍以上あり、法の許可が必要な施設が多い。このような施設を条例の許可対象とはできない。
許可を受けていない施設については、今後、使用中止を指導していくことになるが、業者にとっては、何千万円もかけて購入した施設が使用できなくなることは死活問題であるため、県の指導に従わない業者に対する指導が、これから大きな課題になってくる。
第二の柱である許可車両標章制度については、規制対象が許可収集運搬業者であるため、実施状況は良好で、76%の車両がすでにステッカーの交付を受けている。
しかし、千葉県だけの規制であるため、千葉県内への運搬にしか適用できない。例えば、千葉県内を通過して、政令指定都市である千葉市に運搬するということなら、貼付義務はない。
このように、許可車両標章制度は、千葉県単独で実施しても効果に限界があるため、知事から環境大臣への具申により、全国化の検討が行われている。
第三の柱である廃棄物処理票制度も、千葉県だけの規制であり、運搬先が千葉市を除く千葉県内の場合のみ、処理票の交付・携行・保存義務が生じる。
そもそも小規模処理施設の許可数が少ないということもあり、処理票の実施率も低い。許可施設がなくても、自社物を運搬する場合には、処理票の交付義務があるので、今後、解体業者などを中心に、交付を指導していくことになる。
このように千葉県条例は、自社処分偽装対策に特化した条例であるが、規制の強化に対応して、最近はリサイクル偽装による廃棄物の大量集積、長期保管が増えている。
このため、今後はリサイクル偽装対策についても、積極的に取り込む必要があると考えられる。
条例完全施行時に予想された混乱
平成15年10月1日の条例完全施行時には、条例許可対象の既存施設を有する業者の駆け込み申請、あるいは無許可業者の操業継続といった混乱が予想されたが、結果的には申請が殺到するというほどの状況ではなく、むしろ、操業中止指導をされて、あわてて申請相談にくるという業者も多かった。
事務的に、一番懸念が大きかったのは、小規模焼却炉について、法の許可対象(時間200キログラム以上)か、条例の許可対象(時間50〜200キログラム)か、判断が難しいケースがあるということだった。
これについては、申請書では200キロ未満とされているが、その根拠が明らかでないため、申請を却下した例、法の許可対象となることが明らかだったが、条例の許可対象となるよう自主的に構造変更をさせて許可した例、燃焼実験を行って能力を算定して判断した例など、それぞれの状況に応じた対応をしている。
全体として、大きな混乱はなく、条例は県内のルールとして定着したようである。
産廃条例の今後の展開
自治体が先行して条例を制定して、それが法制化、全国化されるということは、これまでも大気汚染防止など、多くの環境規制で先例がある。行政法学者や環境法学者の多くも、条例による規制が法に先行することに対して、概ね肯定的である。
しかし、環境省だけは、表向きこのような流れを肯定できない立場にあるようだ。
千葉県条例は、廃棄物処理法の規制の横出し(規制対象の拡大)を行った全国初の条例として話題となった。
当初は環境省から、横出し(小型焼却炉など法規制対象外施設の規制)の合法性について疑義が出されていた。しかし、千葉県条例が先鞭を切ったことで、他の自治体でも横出し規制を盛り込んだ条例の制定が相次ぐことになった。
産業廃棄物処理の許可権を有する自治体は、都道府県、政令指定都市、保健所設置市など、合わせて100余りもある。これらの自治体がそれぞれ独自の条例を制定し、あるいは独自の法解釈を展開したら、収拾のつかない混乱状態に陥り、産廃の広域処理も阻害される。これが、環境省の抱く懸念である。実際、この懸念は自治体による許可基準や処分基準の違いとして、現実のものとなっている。
もちろん、この事情は自治体もよくわかっていて、産廃税やディーゼル車規制などで、自治体が広域的に連携し、同内容の規制を同時に施行することが行われるようになってきている。
地域ごとに規制内容が変わったり、規制ごとに連携する自治体の組み合わせが変わったりすることは煩瑣だと、産業界からはブーイングがあるようだが、環境問題や廃棄物問題に関しては、全国一律の規制よりも、地域ごとの実情を踏まえた解決策を考えた方がうまくいく場合が多い。
環境省や国土交通省は全国を一つの静脈物流エリアとして捉えたいようだが、広域移動のための廃棄物の長期保管・大量保管、運搬のためのエネルギー消費と二酸化炭素排出、交通事故の増加、保管された廃棄物の腐敗や火災など、マイナス面を考えると、いくつかの地域に物流エリアを区切った方が効率的であり、環境にもやさしいシステムを構築できる。
自治体が条例や法定外目的税など、現在の地方自治の枠組みの中で許された自立の手法を最大限に活用するという流れは、これからますます太くなっていくだろう。
地方分権の流れの中で、環境問題や廃棄物問題は、自治体の中心課題であるだけではなく、自治体の力量が試される試金石としての役割を果たして行くに違いない。
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