I-Method


改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第16回

行政代執行


【写真説明】硫酸ピッチの入ったドラム缶のゲリラ不法投棄(千葉県富津市) 県警と県庁が合同で谷底に投げ捨てられたドラム缶の回収と調査を実施している。

相次ぐ硫酸ピッチの行政代執行

 千葉県では、最近の2年間で5件の行政代執行を行った。件数では、おそらく全国最多だろう。このうち4件は、硫酸ピッチの不法投棄にかかるものだった。
 平成13年7月には、芝山町において、土中から150本のドラム缶が発見され、硫酸ピッチの不法投棄事件として、関係者が警察に検挙された。周辺環境への影響を考え、平成15年3月、行政代執行により硫酸ピッチ、汚染土壌、汚染ドラム缶合計約309トンを、国の基金(財団法人産業廃棄物処理事業振興財団の産業廃棄物不法投棄等原状回復支援事業)の支援を得て、約21百万円で中和・焼却処分した。
 平成14年12月には、君津市において、工場跡地に放置された硫酸ピッチ入りドラム缶450本を発見した。その後、隣接する自動車修理工場や道路、民家まで異臭が漂い、非常に危険な状況になり、また関係者が死亡又は行方不明のため、平成16年3月から国の基金の支援を得て、平成16年度までの2か年の事業として、硫酸ピッチの中和処理を行った。今後、焼却処分することにしている。
 平成16年9月には、富津市を流れる志駒川において、硫酸ピッチ入りドラム缶52本が、約80メートルの崖上の県道脇から不法投棄され、崖が硫酸ピッチで黒い滝のようになり、河川も汚染されるという、まれにみる悪質な不法投棄があった。この川は鮎などの川魚の宝庫として知られている清流で、一時は川魚の全滅が危ぶまれた。
 行為者が不明であり、汚染の拡大を防ぐため、緊急措置として、即日行政代執行により、汚染の除去を行った。国の基金への支援を要請中である。
 平成16年9月には、もう一件、九十九里町において、冷凍倉庫内に不適正保管されていた硫酸ピッチ入りドラム缶438本の一部から硫酸ピッチ及び高濃度の亜硫酸ガスが漏れ出しているのが見つかった。現場は民家に近いことから、緊急的なガス抜き作業を開始した。
 このように、硫酸ピッチの行政代執行が相次いでいるが、千葉県では、これまでにドラム缶約1万2千本もの硫酸ピッチが発見されており、さらに新規発見が相次いでいるため、行政代執行を行っているのは一部にすぎない。行為者や土地所有者に汚染の除去を命じることをあくまで原則とし、緊急性が高い場合及び行為者等に資力がなくやむをえない場合のみ、行政代執行を行うことにしている。
 このため、関係者が汚染の除去を約束しながら、対応が遅れている現場もあり、予断を許さない状況となっている。

廃材チップ火災現場の行政代執行

 平成15年8月、佐倉市において、不法堆積された約65千立方メートルの建設廃材及び廃材チップの山から火災が発生し、25日間燃え続けて鎮火した。
 これは建設リサイクル法を逆手に取り、リサイクルと称して産業廃棄物処理業の許可を得ずに廃材を受け入れてチップ化し、処分先もないまま不法堆積したものである。
 県では火災後、廃材及びチップの撤去を命じたが、関係者が警察に逮捕されるなどし、また資力がないことから撤去されなかった。
 鎮火後も燃え残ったチップの山から湯気が立ち上り、温度が80度以上にもなるなど危険なため、24時間態勢の監視を続けたが、温度が下がらず、民家が隣接していることも考え、平成16年6月から平成17年度までの2か年間の事業で、国の基金の支援を得て、約4億円で搬出・焼却処分することとした。
 なお、事業費を可能な限り節約するため、佐倉市酒々井町清掃組合等の清掃工場の協力により焼却してもらっている。
 この代執行では、完全撤去ではなく、チップ等を再燃の危険がない高さ4メートルまで下げるだけにしている。これは、完全撤去すると、土地が有効に活用でき、土地所有者が行政代執行によって利得を得てしまうためである。
 同様の廃材火災現場の行政代執行は、市原市において、平成12年5月に、約5百万円で土砂による覆土工事(窒息消火による再燃防止)を行ったのに次いで、2度目である。

困難な過去の負の遺産の解消

 千葉県には過去の不法投棄現場で未解決のものが約800万トン(環境省集計)ある。
 これを完全撤去するためには、1トン5万円の処理費として4千億円かかる計算になる。国の基金の支援(4分の3補助)を得たとしても、県の負担は1千億円である。しかし、これだけの資金は県にはないし、国の基金も底をついてしまうだろう。
 したがって、千葉県では、香川県の豊島や青森・岩手県境の不法投棄現場のように、完全撤去を前提とした対応はできないと言わざるをえない。
 このため、可能な限り不法投棄の原因者(行為者、土地所有者、排出者等)を究明し、自主撤去させることにしており、新規現場では、県と警察が連携した早期発見と徹底調査により、原因者が究明され、撤去される現場が多くなっている。
 しかし、過去の現場については、今から原因者を究明できる現場は少ない。
 このため、刑事事件になっている現場については、起訴状などを入手し、逮捕者全員に撤去を命じ、履行しない場合には措置命令違反で告発する方針で臨んでいる。
 また、平成12年度に、銚子市で起こった約8万立方メートルの不法投棄のように、平成15年度になって、改めて現場を掘削して証拠を収集し、そこから原因者を究明し、平成16年度に撤去を命じた例もある。撤去見込量は約3千立方メートルであるが、それでも行政代執行を行った場合は、約1億円もかかる工事と思われる。
 汚染防止や地元住民の感情を考えれば、完全撤去が望ましいことは言うまでもないが、限られた財源の中で対応可能な現実的な観点から、環境保全上の緊急性の高い現場を優先して行政代執行を行っている。
 しかし、過去の現場では、風化が進み、草木が生い茂って、不法投棄現場かどうかわからなくなってきている。
 新規の不法投棄は減少しているが、巨大な負の遺産の解消のために、これからはいかに撤去させるかが問題であり、本腰を入れた取り組みが必要になる。規模の大小はあれ、同じ悩みを持つ他の自治体とも連携し、廃棄物の不法投棄等による支障の除去に対する国の支援措置の一層の充実を促していきたいところである。

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