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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第18回(最終回)

不法投棄問題のこれからのゆくえ(下)


【写真説明】海岸へのゲリラ不法投棄(千葉県銚子市) 東洋のドーバーと呼ばれる景勝地「屏風ヶ浦」に不法投棄されたダンプ3台100m3の産業廃棄物。原因者が特定され、撤去された。

大企業の参入

 産廃業界の再編が大きく進んでいる。そのきっかけとなったのは、鉄鋼メーカーの参入である。
 鉄鋼メーカーは、従来から鉄スクラップを電炉で鋼材に戻してきたが、容器包装リサイクル法の施行後、廃プラスチック類をコークスの代用品(酸化鉄の還元剤)として高炉に入れることを始め、その受注量は年間約19万トン(01年)になっている。さらにガス化溶融炉、バイオガス、廃タイヤ油化施設など、次々と大型のプラントを設置し、環境ビジネスに本格的に参入している。
 非鉄メーカーは、廃自動車や廃家電のシュレッダーダスト、廃プリント基板から、銅、アルミ、亜鉛、鉛、その他の希少金属(金、銀、バナジウムなど)を精錬する事業を行っており、その受注量は年間約12万トン(同年)になっている。廃蛍光灯や廃電池から水銀を回収する特殊な精錬所もある。
 紙パルプ業界は、従来から古紙を再生してきた。その量は年間約583万トン(同年)になる。また、溶解炉の熱源として廃プラスチック類、木くず、RDF(再生固形燃料)を買い入れるようになっており、良質の木くずをパルプ原料にしている事業所もある。
 セメント業界は、セメントキルン(セメント焼成炉)で、ほとんどあらゆる種類の産廃を焼却することができ、無機物でも有機物でも、すべてセメント原料か燃料になってしまう。廃棄物の受注量は年間約2756万トン(03年)にもなり、これはセメント1トンに対して375キログラムもの産廃を原料として使っていることになる。
 大規模不法投棄現場の撤去や最終処分場のリニューアルも、新たな環境ビジネスとして注目を集めるようになっている。

産廃業界の規模拡大

 環境ビジネスに参入した大企業の子会社が、軒並み年間100億円を稼ぎ出すのを見て、既存の産廃業者も、規模拡大に向けて大きく動き出している。その原動力となっているのが、廃棄物処理プラントの価格破壊である。
 ストーカー炉やガス化溶融炉などの大型焼却炉は、自治体の清掃工場用仕様で、10年前には1日100トンの焼却能力で100億円と言われた。それが5年前には50億円となり、最近では15〜20億円となっている。
 価格がこなれた背景には、99年2月のテレビ朝日ニュースステーションの「特集・野菜とダイオキシン」(後に民事訴訟で誤報と認定)を受け、同年中に廃棄物処理法の焼却炉基準強化、ダイオキシン類対策特別措置法制定などが行われ、清掃工場が建替ブームになったことがある。大手焼却炉メーカーにとっては、いわゆるダイオキシン特需となったのである。この需要が一巡したことから、価格を下げて、産廃用に販売攻勢をかけているのである。
 1日100トンの焼却炉を1基設置すると、処理単価トン3万円、300日稼動として、年間9億円の売上高になる。1基20億円まで価格が下がれば、採算ベースに乗る。このため、従来は、自治体しか手が出なかった大型炉を産廃業者が設置する例が増えている。
 ダイオキシン類の拡散につながるという懸念から規制強化が図られてきた効果で、一時は産廃用焼却炉が激減していたが、大型焼却炉の設置が、最近の大きな流れとなっている。
 産廃業者の処理能力が増強し、経営規模が拡大することは、不法投棄対策としても効果がある。
 電子マニフェスト、GPS(衛星位置情報システム)による収集運搬車両の監視、ICチップなど、不法投棄を防止するハイテク技術が開発されているが、これらを普及させる基礎条件として産廃業者の経営規模拡大が不可欠である。
 売上高100億円規模(1日の処理能力1000トン規模)の業者が1000社あれば、年間処理能力は3億トンとなり、委託処分されている産廃をすべて処理することが可能である。これが当面の産廃業界再編の目標となるだろう。

循環型社会の構築

 廃棄物処理法の2000年改正によって排出事業者責任が強化され、実際にも排出事業者に措置命令が発せられるようになったことを受けて、排出事業者の不法投棄防止対策やゼロエミッション対策が進展している。最先端の大企業では、2003年をゼロエミッション達成年度としたところが少なくない。
 不法投棄防止対策としては、優良な産廃業者の選別、取引先産廃業者数の絞込みなどの取り組みに加え、排出事業者と産廃業者が共同出資型の施設を立ち上げる試みも、ゼネコンなどの業界で始まっている。
 排出事業者だけではなく、産廃業者の間にも、ISO14000の認証取得の動きが加速しており、環境報告書を作成して、環境への取り組みについて情報を公開している企業も増えている。
 優良な産廃業者を表彰したり、業者を格付けたりする試みも始まっており、産廃業者に関する事業情報や会計情報の公開が進めば、格付けの信頼性も高まっていくに違いない。
 循環型社会形成推進基本法、資源有効利用促進法、5つの個別リサイクル法(容器包装、家電、食品、建設、自動車)によって、法的には循環型社会を構築する条件が整った。しかし、具体的な対策はこれから本番を迎える。
 現在、産業廃棄物のリサイクル率は45%(発生量4億トンベース)にとどまっており、全産業の資源循環利用率(全資源中の再生資源の割合)は10%程度にすぎない。再生資源が中国などに輸出されているため、国内の循環利用率が伸びないという問題も出てきている。
 中古車や中古家電などの中古品市場や、インターネットを活用した中古部品市場が拡大しており、循環型社会を構築するには望ましい傾向と考えられる。
 しかし、本格的な中古住宅市場がないことが、住宅の使用年数を短くし、建設系廃棄物の大量排出、不法投棄につながっているという問題もある。
 循環型社会は、ただ産業廃棄物の最終処分や不法投棄がなく、天然資源や化石燃料の使用量が少ない社会を意味するのみならず、ストックの豊かな社会をも意味する。
 これを実現するには、経済や文化の基礎となる、私たちの価値観から変えていかなければならない。

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