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改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第17回

不法投棄問題のこれからのゆくえ(上)


【写真説明】ブルドーザによる重機破砕(栃木県小山市) 中間処理施設のヤードに積み上げられた廃棄物を大型ブルが踏み潰している。これを重機破砕あるいは「揉む」と称していた。アウトロー施設の典型的な光景である。揉まれた廃棄物は木くずなどの管理型廃棄物を大量に含んでいるが、安定型最終処分場に埋め立てられていた。安定型の処分料金が値上げされるについれて、大規模不法投棄現場へと流出するようになった。

不法投棄の原因

 廃棄物処理法がたびたび改正され、排出事業者責任の強化、マニフェスト制度の強化、罰則の強化などが行われ、地方自治体独自の条例も制定されるなど、さまざまな不法投棄対策が実施されてきた。環境省は5年以内に大規模な不法投棄を根絶するとしており、不法投棄の原因と手口について理解し、さらに効果的な対策を推進することが必要である。
 産業廃棄物の不法投棄や不適正処理の原因について、さまざま言われてきたことは、処理施設の不足、低料金、排出事業者の責任感の欠如の3点にまとめられる。
 処理施設の不足については、最終処分場の残余年数の逼迫が指摘されてきた。しかし、不法投棄現場までの廃棄物のルートを調査してみると、中間処理施設の能力不足に起因するオーバーフロー受注が、不法投棄の大きな原因となっていることがわかった。
 こうした中間処理施設に立ち入り検査してみると、許可を得た処理能力の10倍以上もの受注をしている施設も珍しくなかった。1日300トンオーバーフローしている施設が300日稼動すれば、年間流出量は9万トンになってしまう。こうした施設が5ヶ所あるだけでも、環境省集計の全国不法投棄量を超えてしまうことになる。
 オーバーフロー業者が低料金で受注するために、適正処理をしている優良業者が育たないという問題も指摘され、悪貨が良貨を駆逐する構造とたとえられてきた。
 確かに不法投棄の実行犯である無許可ダンプは、相場の半値以下の料金で処理を請け負っていた。
 また、下請け構造の末端に位置する解体業者が、破格の安値で解体工事を請負わされているため、無許可業者に処理を委託せざるをえなくなり、これが木くずの不法投棄や野焼きの原因になっていたことも事実だ。建設リサイクル法施行後も、解体工賃に大きな変化はなく、むしろ木くずのリサイクルを偽装した不適正処理が増加している。
 しかし、中間処理施設などの許可業者が不法投棄現場への流出ポイントになっている場合には、排出元に常識的な処理料金を請求しないと、かえって怪しまれてしまうから、必ずしも低料金の業者だけが不法投棄に関与しているとも言えない。
 排出事業者の責任感の欠如については、マニュフェスト制度の普及が完全ではないことが指摘されてきた。とくに環境担当者を置けない中小企業などでは、マニフェストを収集運搬業者に代筆してもらうことが慣例化しており、処分費も一括で支払っているため、収集運搬業者の不正行為をチェックできないという問題もあった。
 ただし、許可業者が関与する不法投棄については、排出事業者だけの対策には限界があるという声も出ている。大企業といえども、信頼して委託していた産廃業者やリサイクル業者から流出した産廃が、不法投棄現場で発見されてしまったという事例は少なくない。

行政の取り組み

 50万トンを超えるような大規模な不法投棄現場が全国で発覚するたびに、許認可を担当する自治体の対応の遅れが指摘されてきた。許可業者が不法投棄に関与しないよう、許可証の信頼性を回復することは、行政の喫緊の責務であると言える。
 中間処理施設などのオーバーフロー受注を止めさせるには、自治体が立ち入り検査の際に受注量が適正かどうかを確実にチェックする体制を確立することが必須である。決算書を入手して売上高と処理単価から受注量を逆算するだけでも、著しいオーバーフローは、容易にチェックできる。
 パトロールや立入検査によって、不法投棄を未然に防止するために必要な自治体の人員が何人かという基準はないし、地域によっても時期によっても条件は異なる。
 千葉県では、不法投棄現場の監視担当者を年々増員し、2004年度は、本庁(産業廃棄物課)約45名、出先事務所(県民センター)約65名、合計約110名の体制となっている。本庁では、行政指導、行政処分、監視(24時間パトロール)のそれぞれについて専門の班を設置しており、出先事務所にも監視チームを置いている。
 さらに、警察や市町村との協力体制も整ったことから、ようやく大規模不法投棄の新規発生をほぼ根絶させることができた。ただし、小規模なゲリラ的手口までゼロにするのはなかなか難しい状況が続いている。
 巨額の費用がかかる過去の不法投棄現場の撤去は、自治体だけではできない。負の遺産をクリアランスするため、国のさらに思い切った財源措置が求められる。
 
不法投棄の手口の変化

 不法投棄は大規模な現場と小規模な現場では手口が異なる。
 大規模不法投棄は、上流では許可のある収集運搬業者や中間処理業者を経由し、下流ではダンプの手配、適地の地上げ、建設重機の借上げ、現場開設が組織的に行われており、暴力団が関与していることも少なくなかった。農地造成や残土処分を偽装している現場も多く、無償造成などを口実に地主を騙すこともあった。
 このような組織的不法投棄は、特定の地域(千葉県では銚子と市原の周辺)に集中する傾向が見られた。
 最近になって全国で発見されている大規模不法投棄では、許可処分場の無許可拡張という手口が目立っている。これは最終処分場の新規許可の難しさによる残存容量の温存という問題が背景にある。
 建設系廃棄物などの小規模な不法投棄では、排出現場からの直行便、解体業者の自社処分場や無許可の積替保管場経由が多く、ダンプ単独で他人の土地に捨て逃げするゲリラ的な手口が中心になっている。
 硫酸ピッチの不法投棄では、不正軽油製造施設と契約した一時業者によるドラム缶数千本規模の大量保管、二次業者による無許可処理、三次業者によるトラック1台50本程度のゲリラ的不法投棄の組み合わせによって、組織的に行われることが多い。
 かつて不法投棄が多かった廃プラスチック類は、ベール化(梱包)されて中国などに輸出されるケースが増加しているが、品質が悪く、輸出できないままに長期間放置されているものも出ている。
 このような手口の変化に、監視担当者は臨機応変に対応していかなければならない。

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