I-Method


改訂版 不法投棄と戦う産廃Gメン奮戦記 第11回

施設の事故と行政担当者のリスク


【写真説明】廃タイヤ油化施設の爆発事故(千葉県市原市) 産廃処理施設として許可を取るように指導中の現場だった。事業者は廃タイヤを原料として購入しているとして、許可申請を拒否していた。作業員2名が吹き飛ばされて犠牲になった。水素爆発と見られる。タイヤを油化すること自体は簡単だが、できた油は不純物が多く、精製しなければ商品にはならない。タイヤには大量の硫化物、さまざまな種類の金属が含まれており、排ガスや残留物の処理が難しい。

多発する爆発事故

 廃棄物処理施設は、事故が多い業種の一つである。廃棄物の選別作業中にガラス片や針などの鋭利物によって作業員が負傷する事故などは日常茶飯事と言われている。また、成分がよくわからない危険な化学薬品を処理しなければならない場合も多く、廃棄物処理は常に事故と隣り合わせの仕事だと言える。
 1999年10月に福岡県の安定型最終処分場で起きた硫化水素中毒事故では、従業員3人が死亡している。この事故は、送水槽に溜まった浸透水を、検査のためにサンプリングしている時に起こり、救援者も次々に倒れて惨事になった。千葉県の最終処分場で、マンホールのメンテナンスをする時、作業員にエアラインマスクを着用させ、さらに送風機でマンホール内を強制換気するなど、二重三重の安全管理の下で作業を行っていたのを見たことがある。これは、福岡県の事故が教訓になっていたのかもしれない。
 2003年8月に起こった三重県のRDF発電所の爆発事故でも、消火作業に当たっていた消防士を含む4人が死傷する惨事となった。死傷者はなかったが、2004年1月には、香川県豊島の不法投棄物を処理するために同県直島に建設した溶融炉が爆発事故を起こしている。
 千葉県市原市においても、2003年9月に、廃タイヤ油化施設が実験中に爆発し、作業員2人が死亡するという惨事が起きている。事故の原因は究明中であるが、類似のプラントでも爆発事故が頻発している。この施設はリサイクル施設であるとの理由で、廃棄物処理法の許可なく設置されたものである。また、実験中ということから、消防署に対して、消防法の危険物保管の申請もなかった。

事故の背景

 廃棄物処理施設で事故が多発している背景には、廃棄物処理の安全管理の難しさがある。どの廃棄物処理施設も消防法の基準に従った設備を設け、消防署の検査も受けているに違いない。しかし、施設の防災担当者が、専門的な知識を身に付けて、より踏み込んだ防災計画を立てなければ、事故は完全には防止できない。
 大量の廃棄物を集めた場合、リスクは平均化せず、むしろ指数関数的にリスクが増大する。このことを知らず、平均値的な発想をしたのでは、事故は防げない。マッチ箱が1箱、可燃性の高い写真フィルムが一本、スプレー缶が1本、可燃性の高い溶剤が1瓶混入していただけでも、そこから引火すれば、1万トンの廃棄物が全焼しかねない。廃棄物の事故リスクは決して平均化されないのだ。ゴミは大量に堆積されると、圧力や有機物の発酵で100度近い高温になるのが常識である。さらに、メタンなど可燃性ガスを多量に発生するので、常に火災が発生しやすい危険な状態にあると言える。引火点の低い物質があったり、ちょっとしたスパークがあったりするだけで、そこから引火して火災になる危険が高いと考えなければならない。
 生石灰や苛性ソーダなどの化学物質は、脱水、脱塩・脱硫、中和など、廃棄物処理施設では使用頻度の高い物質だが、安易に扱うと発熱して火災の原因になる。中和反応では、反応熱が数100度に達することもあり、水との反応性にも十分な注意が必要である。三重県のRDF発電所の事故でも、消火作業中に爆発したことから、原料サイロに入れた生石灰が原因ではないかと疑われている。
 また、思いがけない化学反応が事故をもたらすこともある。香川県直島の溶融炉の事故では、シュレッダーダストの中の金属と酸が反応してできるジアルミ酸ソーダなどの物質から水素が発生したことが爆発原因ではないかと疑われている。石膏ボード、タイヤや電線の絶縁被覆(加硫ゴム)は、分解すると硫化水素を発生する。特に石膏ボードの主成分の硫酸カルシウムは、土壌中の微生物によって簡単に生分解し、1週間ほどで硫化水素を発生する。
 塩素系プラスチック類や接着剤を焼却すると塩化水素やホスゲン(塩化カルボニル)といった有毒なガスを発生するし、燃え殻やばいじんにダイオキシン類が残留することもよく知られている。特にホスゲンは、旧ドイツ軍が毒ガス兵器に使ったこともある猛毒のガスである。硫酸ピッチが水と反応して発生する亜硫酸ガス(二酸化硫黄)も、直接吸引すると死亡することがある有毒なガスである。
 このような廃棄物のさまざまな危険性をすべて熟知していないと、事故は防止できない。これは行政担当者の調査にも言えることである。

身の危険を回避するには

 行政担当者の現場指導の危険には、物理的な危険と、人的な危険がある。物理的な危険には、崩落や転落、火傷、化学物質による中毒、交通事故などがある。これらの事故を防止するため、安全靴、ヘルメット、化学防護手袋などのほか、有害ガスの組成に応じたガスマスクも装備している。千葉県成田市で医療系廃棄物の不法投棄を調査している時には、安全靴を履いていても、2人が注射針を踏み抜いてしまう事故が起こった。
 人的な危険では、栃木県鹿沼市の廃棄物担当職員が殺害され、加害者も自殺するという痛ましい事件が起こっている。千葉県でも、現場指導で相手が興奮して大声をあげたり、胸倉をつかまれたりと、身の危険を感じることも少なくない。どこで調べるのか、自宅に電話をかけてきたり、訪問してきたりする業者もいる。
 人的な危険を回避するには、1人で指導しないこと、危険が予測される場合には、事前に警察の協力を求めておくこと、小さなトラブルでも組織として対応することが大切である。
 兵法の極意に、「敵の退路を塞ぐな」というのがある。業者を八方塞がりにしてしまうと、組織として指導しているつもりでも、担当者が逆恨みされることがある。たとえ違法行為をしている業者でも、業務改善をするには時間的な余裕が必要だから、立ち直る見込みがあるなら、時間をかけて粘り強く指導していくことで、仕事もうまくいくし、危険も少なくできる場合が多い。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ
連載コーナーへのご意見・ご提案・ご感想をお待ちしております。